ケースがある。
全身の代謝に及ぼす影響をニュートラルにするための適切な補充量はあるのだろうか?
隈病院からの報告。
Biochemical Markers Reflecting Thyroid Function in Athyreotic Patients on Levothyroxine Monotherapy
(Thyroid, 2017; 27(4): 484-490)
P:
I,C:
術後、乳頭癌再発リスクに応じて設定されたTSH管理目標値(ATA 2009)にしたがってチラーヂンSを投与。
- 高リスク患者 72例:TSH≦0.03μIU/ml
- 中リスク患者 72例:0.03<TSH≦0.3μIU/ml
- 低リスク患者 72例:0.3<TSH≦5μIU/ml
術後12か月時点での代謝プロファイルを評価。
O:
- TSH≦0.03μIU/ml のグループでは、心拍数、SHBG(肝での甲状腺ホルモン作用のマーカー)、BAPなどが増加。
- 0.3<TSH≦5μIU/ml のグループでは、LDL-Cが増加、TRACP-5bが低下。
- 0.03<TSH≦0.3μIU/ml のグループ(FT3が術前と比較して変化なし)では、術前後ですべての代謝マーカーの変化を認めなかった。
考察で述べられていること
- 甲状腺機能低下症のガイドライン (ATA 2014) では、甲状腺全摘患者でlow-normal TSH、high-normal FT3を目標にL-T4を投与するエビデンスは不十分とされている。(1)
- TSH抑制がアテローム形成・骨密度・骨折などに与える長期的な影響は不明。
補足
★ 甲状腺全摘後に相対的にT3欠乏状態となる機序として下記が想定されている。
★ ATA2014では、TSHを基準値内にするようL-T4を投与することが推奨されている。
(中枢性ではFT4が基準値の上半分となるように)
★ 2019年のEndocrine のレビューによると、(3)
- 現状ではすべてのガイドラインで、補充療法にはL-T4が推奨されており、L-T3の追加については現時点で明らかなメリットを証明したRCTはない。
参考文献
(1) Thyroid, 2014; 24(12): 1670-1751
(2) Am J Physiol, 1990; 258: 715–726
(3) Endocrine, 2019; 66: 70–78