内分泌専門医のブログ

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甲状腺全摘後、チラーヂンSの至適補充量は?【Thyroid 2017】

甲状腺全摘後にチラーヂンSを投与していて、

  • FT3を正常化しようとしてチラーヂンSを増量すると、TSHが抑制される
  • TSHが抑制されないようにチラーヂンSを減量すると、FT3が低値になる

ケースがある。

 

全身の代謝に及ぼす影響をニュートラルにするための適切な補充量はあるのだろうか?

 

隈病院からの報告。

 

 

Biochemical Markers Reflecting Thyroid Function in Athyreotic Patients on Levothyroxine Monotherapy

(Thyroid, 2017; 27(4): 484-490)

 

 

P:

甲状腺乳頭癌で甲状腺全摘術を受けた133例

バセドウ病など甲状腺機能異常は除外

 

I,C:

術後、乳頭癌再発リスクに応じて設定されたTSH管理目標値(ATA 2009)にしたがってチラーヂンSを投与。

  • 高リスク患者 72例:TSH≦0.03μIU/ml
  • 中リスク患者 72例:0.03<TSH≦0.3μIU/ml
  • 低リスク患者 72例:0.3<TSH≦5μIU/ml

術後12か月時点での代謝プロファイルを評価。

 

O:

f:id:Makuro:20210206104025p:plain

 

f:id:Makuro:20210206104033p:plain



  • TSH≦0.03μIU/ml のグループでは、心拍数SHBG(肝での甲状腺ホルモン作用のマーカー)、BAPなどが増加
  • 0.3<TSH≦5μIU/ml のグループでは、LDL-C増加TRACP-5b低下

 

  • 0.03<TSH≦0.3μIU/ml のグループ(FT3が術前と比較して変化なし)では、術前後ですべての代謝マーカーの変化を認めなかった。

 

 

考察で述べられていること

 

 

補足

甲状腺全摘後に相対的にT3欠乏状態となる機序として下記が想定されている。

  • T4の100%が甲状腺から分泌されるが、
  • T3は20%が甲状腺からの分泌で、80%は甲状腺外でT4から変換されてできる。(2)

 

 ATA2014では、TSHを基準値内にするようL-T4を投与することが推奨されている。
中枢性ではFT4が基準値の上半分となるように)

  

2019年のEndocrine のレビューによると、(3)

  • 現状ではすべてのガイドラインで、補充療法にはL-T4が推奨されており、L-T3の追加については現時点で明らかなメリットを証明したRCTはない。
  • L-T3を追加しても認知機能・QOLなどに変化を認めなかったとする報告や、L-T3追加によって17年間の観察で心血管イベントの増加を認めず抗不安薬の処方が増えたとする報告がある。

 

 

参考文献

(1) Thyroid, 2014; 24(12): 1670-1751

(2) Am J Physiol, 1990; 258: 715–726

(3) Endocrine, 2019; 66: 70–78